第42章 そんなの、私に分かりませんよ
私達は、同時に線香花火をスタートさせる。火玉は、まるで命が宿ったように 酸素を吸い込んでどんどん大きくなった。
『線香花火には、その移ろいに名前が付いているのをご存知です?』
「いえ…へぇ、名前があるんですね」
『はい。まず、今の状態が蕾』
「あ、もうそろそろ火花が出ますね!
綺麗だなぁ…」
『これが 牡丹』
やがて火花は勢いを増し、ピークを迎える。
『ここは、松葉と呼ばれます』
「激しくも繊細で、いいですよね」
『……そして、この終わりに差し掛かった今の状態が、散り菊』
「まるで…人の一生みたいですね」
線香花火の淡い光が、壮五の横顔を照らす。なんだか私の目には、彼が悲しそうな表情に映った。
やがて火玉は小さく萎み、地面へと落下していった。それを見届けてから、壮五が小さく言った。
「線香花火って、環くんみたいだなって思うんです」
『…松葉の状態からイメージしたんですか?確かに、激しい火花は元気な彼らしいかもしれませんね』
「あ、いえ…僕が考えていたのは、線香花火の危うさが…彼に似てるな。と」
『…危うさ、ですか』
「はい。内にエネルギーをいっぱい溜め込んで、激しく花咲かせる時を今か今かと待っている。その細い紐にギリギリしがみついて。でも一歩間違えば、膨大なエネルギーが暴発して、自重で地面にボタ!
って、落ちそう…みたいな」
『な、なんて縁起でもない…!』
そう説明した壮五の線香花火は、蕾の段階で火玉が落下した。それは、地面に激しくぶつかって散り散りに消える。
「…あぁ、ほら、いつか環くんも、僕の手から離れてこんなふうに消えてしまうんだ…っ」
『い、今のは風!風のせいですよ!』貴方は何も悪くない