第42章 そんなの、私に分かりませんよ
「じゃあ、次はキミが当てて」
『いいですよ』
天も私と同じく、両手に花火を持ち 腕を振る。
走る光が残像となって、私の瞼の裏に焼き付いた。
『………』
「おい天。お前も漢字書いただろ。こういうのはな、平仮名か片仮名って相場は決まってんだよ」
「何それ。そんなルール誰が決めたの」
「俺も読めなかったなぁ。天、何て書いたんだ?」
「……キミは?プロデューサー。ボクが今 何て書いたのか、分かった?」
『………私も、読めませんでした』
「そう。それは、残念だよ」
天は、含みのある笑顔を残して私に背を向けた。
私は彼に嘘をついた。本当は、空中に描かれた文字を読み取れたのだ。
その文字は… “ 虚偽 ”
どういう意図で天が、私に向けてそれを投げ掛けたのか。彼の深層を推測すればするほど…私の心臓は、どくどくと嫌な高鳴りをした。
動揺を隠す為、私はメンバーから距離を取る。そして、近くにあった石段に腰を落ち着けた。
空を見上げる。今日は快晴だ。自然豊かなこの場所だからか、星も月も綺麗に見えた。澄んだ空気のおかげだろう。
「中崎さん、隣 良いですか?」
『…ええ、どうぞ』
側へ来たのは壮五だった。隣に座る事を快諾すると、彼は腰を下ろす。
ふと顔を前にやる。少し離れた場所で TRIGGER3人と環が、実に楽しそうに手持ち花火をしているのが見えた。
そんな私に壮五は、ある物を差し出した。
「僕達は、これ やりませんか?」
『…いいですね』
「良かった。僕、線香花火って好きなんですよ」
『奇遇ですね。私もです』
煌々とした小さな熱源から チリチリパリパリと、全力で命を輝かせる。そんな儚い線香花火が私も好きだった。