第42章 そんなの、私に分かりませんよ
おそらく300本は くだらない手持ち花火を、なんとか消化しなくては。
誰だ。この馬鹿みたいに莫大な量を誇るバラエティパックを買ってきたのは。
私だ。
「中崎さーん!見て!こっち見て」
『はい?』
「何て書いてるでしょーか」
そう言うと環は、手に持った花火を振り回し、空中に文字を書き始めた。暗闇に浮かび上がる光の文字。それは、すぐに読み解けた。
答えは “ えりりん ” である。満面の笑みで得意げにそう書いた環に、正解を答えてあげられないのが残念だ。
『…さぁ。よく、分かりません』
「えー…ちゃんと、本気出して見てたのかよ…」
「あはは。俺も何か書いてみようかな」
口を尖らせた環を横目に、龍之介も花火に火を点ける。そして彼もまた、文字を綴った。
“ 春人 くん ”
どうして2人とも、私の名前を書いて喜んでいるのだろう。
「おい春人。お前も書いてみろよ。俺が絶対に当ててやるから」
『……いいですよ』
私は 2本の花火を手に持って、火が点くなり手を動かした。
左手と右手、それぞれで異なる文字を描く。そのあまりに高速な花火捌きに、楽は驚嘆の声を上げる。
「うわ!早っ、な…っ!おいそれ、絶対に難しい系の漢字だろ!それも、すげぇ画数多い奴だ」
『それで、答えは?』
「誰が分かるんだよ!そんなもん」
「…檸檬」
『天、正解です』
「いやいやいや!!もう、どこにどう突っ込んだらいいんだ俺は!」
「難しい漢字を知ってるんだなぁ、春人くんは」
「いえ…それよりも、檸を右手で、檬を左手で、同時に書けるのが凄くないですか?」
「っつーか、正解した てんてんも怖ぇよ」