第41章 歳の差のせいにだけはすんなよ
しかし。またしても、私の目論見は外れる事となる。
熊さんは、下り坂なんて なんのその。器用にお尻を地面につけて、滑り降りてきたではないか。
私は、右手を広げて その後ろ手に紡を庇う。
『…はぁ。熊、やば。何の情報も通用しないとか』
「っ、中崎さん、こうなったら…もう、あの手しかっ」
『あの手?』
紡は、その場にパタリと倒れ込んだ。仰向けに。
「死んだ、ふりです」
『それ1番駄目な奴』
死んだふりは、昨今ではあまり有効な手段とは言えない。
が。後ずさりも、下り坂も通用しなかったのだ。もう打つ手がないのも事実。
私は、半ば諦めの境地で 構えを取る。
『紡。うつ伏せになって、首の後ろを両手でガード。絶対に頭上げないで』
「え、え…?分かりました、けど…中崎さんも早く死んだふりをし」
『いいから。早く頭下げる』
「は、はいっ!」
大人しく言う事をきく紡に、小さく いい子。と呟いてから、私は改めて熊に対峙する。
立ち上がる姿は、全長2メートルほどだろうか。多分、熊にしては小柄な方だと思う。そして、全体的に貧相だ。もしかすると、餓えているのかもしれない。だとすれば危険度は跳ね上がる。
だがやはり、私の目にはそれほど脅威的に映らなかった。自分でも驚くほど落ち着いていた。
『…やって、やれない事はない』
独りごちてから、私は目の前の獣に向かって飛びかかった。