第41章 歳の差のせいにだけはすんなよ
互いに眉をしかめた私達。きっと、同じ事を考えている。
それは、この場にいない小鳥遊紡のこと。
『貴方達は、2階に集まっていて下さい』
「キミは?まさか外に行くなんて、言い出さないよね」
『すぐに戻ります』
「はぁ。馬鹿なの?熊に出くわしたら、終わりだよ」
『だからですよ。小鳥遊さんが熊に出くわす前に、彼女を連れ帰らないと』
天の瞳が、怒りからかユラリと揺れる。
「じゃあ、ボクらも行く」
『貴方こそ馬鹿でしょう。貴方達が死んだら、どれだけの人間が悲しむ事になるか理解していない訳でもないでしょう。
私が死んだところで、悲しむ人間なんてそういない』
私は、早く外へ飛び出したくて気が焦っていたのだろう。天の地雷を見事に踏み抜いたことに、全く気が付いていなかった。
「……ねぇ」
『!!』
天は、喋りながらゆっくりとこちらへにじり寄って来る。その表情は、静かでありながら 凄い剣幕を纏っていた。こんなふうに怒る彼を、私は未だかつて見た事がない。
「ボク達の事をなんだと思ってるの。キミが死んでも、悲しむ人間なんてそういない?
本当に何も分かってない。ボクは、キミが居なくなったら…」
『居なく…なったら?』
天の威圧に耐えられず、私はずるずると後退していた。しかし、ついに背中が壁に到達してしまう。
そんな行き場のなくなった私の横に、彼は両腕を勢い良く突き立てた。
両耳のすぐ側で、ドン!と大きな音が鳴る。
するどく尖った瞳孔が、私を貫く。
「きっともう、歌えなくなるよ」
怒りに濡れていた瞳に、悲しみがきらりと光った。
『…はは、それは…。最強の、脅し文句ですね』