第41章 歳の差のせいにだけはすんなよ
私は、2階に寝かされていたらしい。階段を降りる天の背中で それに気付いた。
華奢に見えても、やはり男の子だ。安心感のある広い背中、それに後ろへ回された腕は力強い。
艶のある美しい髪からは、甘いようでいて苦味もある 大人の男の匂いがした。
「軽い」
『……えっ』
天が急に口を開いたので、慌てて頭の中の邪念を振り払う。良い匂い、などと思っていたと絶対に知られたくない。
「体重、軽すぎない?」
『普通ですよ。天に腕力があるから、そう感じるのでは?』
「…ふぅん。ま、そういう事にしておいてあげる」
顔を、見なくても分かる。
彼は今、笑っていると。
天はごくたまに、こういう笑い方をするのだ。
自分は、全部の秘密を知っている。だがあえて、知らないふりをしてあげるよ。感謝してよね。
まるで そう言っているような、含みのある、真意の見えない笑い顔。
彼がこういう顔をする時、私はいつも決まって、話題を変えて誤魔化すのだ。
『天。どうして、皆さん揃って私の顔を見ないんですかね』
誤魔化す。誤魔化す誤魔化す。
「さぁね。後で鏡で自分の顔でも見てみたら?」
誤魔化す……
『なんですか、それ』
だが、一体いつまで、彼は私に
誤魔化されてくれるのだろうか。
「はい。着いたよ。それじゃないの?キミの靴」
『あ、はい。どうもお世話様でした』
私が靴を履く間、何故か天は 向こう側を向いていた。
それはまるで…女性の着替えを見ないように、視線を逸らしてやる 男の子のようだった。