第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
「悔しい?」
楽は、その言葉を理解出来ないといわんばかりに 首を傾げた。
『はい。私もここで彼女の歌を聞いた時は、…彼女がここから世界に羽ばたくんだって。伝説のアイドルになるんだって信じて疑ってなかった。
でも、結果は…そうはならなかった。結局たった一回のステージを最後に、彼女は姿を消す事になった。
それが、悔しくて…腹立たしくて。つい、キツイ言い方をしてしまいました』
どうして、私だったのだろう。
どうして、私だけこんな苦しい目に。
そんな、情け無くもどうしようもない ぐちゃぐちゃの感情を…楽と
そしてLio に…他でも無い過去の自分に、ぶつけてしまったのだ。
『本当に…貴方には、ひどい事を』
「それはもういい。それに…あんたがちゃんとLioの事を認めてるって分かって、スッキリした」
楽の言葉には、もう怒りの色は見えなかった。
本当に許してもらえたのだろう。良かった。これで一安心である。
「それより、アンタの秘密ってのは…
自分もLioのライブに立ち会ってた。そういう事でいいんだな?」
そうです。
そう答える前に、楽に ガッと肩を掴まれる。
『!?』
「春人。お前…Lio の居場所を知ってるとかじゃねぇよな」
楽の鋭い 鷹のような目が、真っ直ぐに私を捕らえる。
まるで、このまま彼に捕食されてしまうのでは。と感じる程に。
『いいえ、残念ですが…。私も彼女の居場所は知りません』
私は、目の前の男から目を逸らす事なく そう答える。
「………そうか。分かった」
ぱっと私の体を解放すると、楽は溜息をついた。
彼は…ずっと、私の事をこうやって探し続けているのだろうか。
「悪かった。お前は本当に知らねぇんだな。
あれだけ真っ直ぐ人の目見て、嘘つけるわけないからな」
貴方は、ひとつ覚えておいた方が良い。
たしかに男は、嘘をつく時に相手から視線を外す。
しかし女は…、相手の目をじっと見て、嘘がつける生き物だということを。