第39章 組み紐をひいたのは
その時。壮五の持つ包丁を、そっと龍之介が取り上げた。
「十さん…?」
「リュウ兄貴…」ぐす
「お、おい龍。お前、まさか…」
「…俺がやるよ。環くんの相方を、人殺しにするわけにはいかないから」
「えっと…人ではなく、豚なんですけど…」
「ちょっと待てって落ち着け!俺だって嫌だぞ!生きた豚を捌けるような奴と同じグループは!!
捌くのはせいぜい魚までにしといてくれ!」
さすがに楽は 環のように泣きはしなかったが、包丁を手にした龍之介を懸命に制止した。
が、龍之介の顔は真剣そのものだった。
「普段 俺達が目にしてる、スーパーに並んだ豚肉だって、誰かが手を下して あの形にしてくれているんだ。だから、これは生きる上で必要な行為なんだよ」
「ちょ、腹括ってんじゃねえよ!カッコいいな おい!」
「十さん、僕も同じ気持ちです。
さっき手伝って貰った恩をここで返します。お手伝いしますよ」
「そーちゃん!俺らがさっき貰った恩は、葉っぱと枝だったじゃん!!恩返し明らかにデカ過ぎだって!」
環と楽の健闘虚しく、龍之介と壮五の2人は豚の前に跪いた。
そこで、天はチラリと監督の方を見る。すると監督は、こくりと頷いた。それを確認した天は、ずっと隠してあった小さな立て札を持ち上げた。
そこには、ドッキリ大成功 の文字が。
「テッテレー」
天の口から、なんとも気の抜けるSEが飛び出した。4人は、しばらくそんな彼を呆然と見つめた。
「と、いう事で…ドッキリでした。
少し考えれば分かると思うけどね。誰が楽しいバーベキュー中に、スプラッタ展開なんて見たいと思うの?」
天の懇切丁寧な説明を聞いても、しばらくは誰も口を開かなかった。