第39章 組み紐をひいたのは
はじめは2人だったスタッフは、5人に増えていた。全員で、私に頭を下げる。本来ならああいう輩の対処は 自分達の仕事だったのに、すまない。そう口々に言った。
私はすぐに首を振った。彼らが仕事をしなかったのではなく、私が自分からしゃしゃり出たに過ぎないのだから。
早く現場に戻ろうと言うと、スタッフ達は速やかに持ち場へと走って行った。
そして、私の腕を掴んでいた構成作家の彼女は、現場監督と目が合ってしまったと嘆いた。目が合って、ここに来ている事が知られれば 挨拶に行かない訳にはいかない。
彼女は泣く泣く、監督の元へと向かうのだった。
『そろそろ私達も戻りましょうか。撮影は滞りなく進んでいるみたいですが、やはり近くで見守りたいでしょう?』
「……」
『小鳥遊さん?』
「あ、すみません!そうですよね、近くで見ていたいです。すぐ行きましょう!」
一緒に歩き出したものの、彼女はどこか元気が無い。思い当たる原因と言えば、やはり先ほどの騒動しかない。
『小鳥遊さん、大丈夫ですか?まぁ、急にあんな人達に絡まれれば驚きますよね。普通は…』
「いえ、違うんです。
あ!そんな事より、さきほどは助けて頂きまして ありがとうございました!」
『助けたつもりなんて、全然ないですから。大丈夫ですよ。それより、本当に平気ですか?調子が悪いようなら、コテージで休みます?送りましょうか?』
私は心配して、足を止める。そして彼女の顔を覗き込んでそう言うと、小鳥遊紡は首を振る。そして、意を決したように言葉を選んだ。
「本当に、大丈夫です。そうじゃなくて、そうじゃなくて…!
その、中崎さんは あの構成作家さんと、とても 仲が良い…んですね!」
『…??』
彼女が今、意気消沈している事と。私が構成作家と懇意な事が、どう関係しているのだろうか。
その2つが結び付く要素は見当たらないのだが、とにかく私は答えを返した。