第39章 組み紐をひいたのは
私は、男が入り口に視線を向けている隙に、強引に腕を取る。捻るように引き寄せて、こちら側に背中を向けさせる。そしてそのまま、男の背面で腕をきつく捻り上げる。
『正面入り口から堂々と不法侵入を目論む貴方達ならば、私が堂々と排除しても…問題はありませんよね』
「あぁ!?なんだその理屈!いっつつつっ!」
『これは意外です。貴方の口から理屈なんて言葉が飛び出すとは。少しは物を考えてたんですね』
悲痛な声を上げる男の耳元に、唇をそっと寄せた。
『私は…警察なんて、呼びませんからね。そんな、優しい対処法は取りません』
「っぐ、ぁ!い、いてぇ!は 離しっ、」
『まだ撮影現場に興味があって、もしも見学がしたいと思うなら…遠慮なく、またここに来たらいい。
でも多分、死ぬほど後悔すると思いますよ?それこそ、警察にしょっ引かれる方が良かったと思うほどにね』
「ひ、ひぃ、…」
回りくどい言い方が、些か面倒になって来た。私はここで顔から笑みを消す。そして、最後の脅し文句を口にした。
『次…1歩でもこっちに不法侵入したら、一生バーベキューが楽しめなくなるようなトラウマ 植え付けてやるからな』
ゆっくりと言葉を口にしてから、ようやく腕を放してやる。すると、3人は一目散に自分達のテリトリーへと帰って行くのだった。
あれだけ脅せば、もうこちらへ絡んで来る事もあるまい。
私が3人の背中を最後まで見送っていると、スタッフと紡、構成作家の彼女がこちらへやって来た。
「春人くんっ!凄ーい!あいつら1人で追い返しちゃったの?ここからじゃ、何言ってたのかよく分からなかったけど。意外と頼りになるのね!カッコいいわぁ」
『ゆっくり話せば、ちゃんと分かってくれたよ?
でも僕、かなり腹が立っちゃったんですよ。こんな美人捕まえて、失礼な事言うんだもん!あいつら!』
「きゃっ、美人だなんて!春人くんがそう言ってくれるんだったら、あんな奴らに何言われたって全然どうでも良い〜っ」
彼女は、自分が おばさんなどと暴言を吐かれた事など忘れたように。はしゃいで私に抱き着いた。
とにかく。彼女のご機嫌を損ねる事もなく、撮影に影響が出る事もなかったのだ。これ以上ない後始末だったと言えよう。