第39章 組み紐をひいたのは
『…移動までには、まだ余裕があるのでは?』
「邪魔した?」
『いえ。素晴らしいタイミングでしたよ』
切り札は、なるべく温存しておきたい。天の乱入のおかげでカードを切らずに済んだ。
そろそろ、彼女はこの会議室から十分に離れただろう。私と天もここを出る事にした。
私は彼の背中に続いて、ドアへと歩いて行く。しかし、天はいつまでたってもドアを開こうとはしない。
ノブに手をかけたまま、じっと動かないのだ。
『…天?』
「キミのやり方に、いちいち口を出したくはないけど」
『では、いま貴方が口にしようとしている言葉は 胸に留めて下さい』
「あぁいうやり方、ボクは気に入らない」
『結局、口出すんじゃないですか』
ドアに向き合っていた天が、体の向きを変えた。そしてしっかりと私と向き合う。
「あんな事をしなくても、今のボク達なら仕事は向こうから来ると思うけど」
『でしょうね。でも、より優秀なクルー。敏腕なスタッフ、著名な企業と手を組む為です。番組の出来は、TRIGGERの人気に直結しますよ』
「そんなのは分かってる。でも」
『もっと泥臭く行きましょう。
ですが当然、手足、体を汚すのは私ですよ。貴方達は、ピュアホワイトでいて下さい』
「それが、キミの仕事だって?」
『その通りです』
私がしっかりと頷くと、天は顔を歪めて溜息を吐いた。
「あのさ。もしかして、もう既に身体を売った事があるの?TRIGGERの為に」
『どんな答えが欲しいんです?それ』
そんな無意味な事を聞いてどうしたいのか。天らしくない質問だと思った。
ノーと言われて安心したい?イエスと言われて怒りを私にぶつけたい?
まぁ実際、TRIGGERの為にそういった行為に及んだのは、百と千だけ(ちなみに大和は出世払い)
だが私はこの3人が普通に好きなので、身体を汚したという感覚は無い。
だから、ノー。と答えても良いのだが…あえて、天の出方を伺う。
「もうしない。この言葉が欲しい」
『無理です。それは。
どうして、そこまで私のやり方が気に入らないのですか?嫌なのですか?』
「今は、上手く伝えられる気がしない」
『そうですか』
「…次にこの話をする時までに、自分の気持ちを整理しておくから。少し待ってて」
またいつかこの話題を蒸し返されるのか。それは、憂鬱だ。
