第39章 組み紐をひいたのは
「春人くんっ!嬉しいわ。あなた達と組める日が、こんなにも早くやって来ると思っていなかったもの!」
『えへへ、僕もですよ!』
彼女は、私が以前から目を付けていた構成作家だ。売れっ子である彼女を番組に起用出来るよう、私は涙ぐましい努力を重ねてきた。
【22章 475ページ】
そして、ついにその努力が実を結ぶ瞬間がやって来たのだ。
「楽しみねぇ新番組!」
『きっと、良い番組になりますよ!』
「もちろんよ。私とTRIGGERが組むのよ?それに優秀な撮影スタッフを選んで、優良なイベント会社に依頼したの。もう最強の布陣よ!
だから、春人くんは安心して見てて」
『わぁ。むちゃくちゃ心強い!』
「ふふ。じゃ、そろそろ行きましょ」
この人の仕事は信頼している。良い物を作るという事にかけての手腕は、私が舌を巻くほどだ。
しかし…
「っ、きゃぁ!」
『わぁ!大丈夫!?』
…演技の腕前は、大根も良いところだ。
私は、椅子の脚に躓いた彼女を咄嗟に受け止める。私の前で “ わざと ” 躓いてみせた彼女を。
黒目がちな瞳を涙で潤ませて、私を上目遣いで見上げる。
「……春人くん…」
『…………』
明らかに私を求め、ねだるような声で名を呼ばれる。
まぁ、キスくらいなら良いか。
そんな軽い気持ちで、ゆっくりと彼女の顎に指をかけた。
コンコンコン
ノックの音が、私と彼女を瞬時に引き裂いた。
「プロデューサー、そろそろ移動…
あ。こんにちは。新番組ではお世話になります。これからどうぞ、よろしくお願いしますね」
「天ちゃんっ!こ、こちらこそ、よろしくね?あはは…とりあえずは、詳細打ち合わせからよねぇ!じゃあまたその時に!春人くんもまたねっ!」
彼女は早口で別れを告げると、私と天を会議室に残し去って行った。