第38章 待っててくれますか?
「君の青春が、詰まってるんだね」
「青春だなんて、そんな良い物じゃないですよ」
これを見ていると、思い出す。
無知で浅はかだった、子供だった頃の自分を。
「…本当に、馬鹿だったんですよ。舞い上がって、焦って、彼女に自分の気持ちだけを押し付けて。明らかに様子がおかしかった事に気が付いていたのに…
俺は、彼女も俺と同じ気持ちでいてくれてるって 疑いもしなかったんですから。恥ずかしいですよね」はは
「それが、子供という奴だよ」
自分が勤める会社の社長に、こんな過去話を聞かせるなんて。おかしいかもしれない。だが彼は、社長でもあり俺の恩人でもある。目を覆いたくなるような悲劇も、無力で弱い自分も見られている。
今さらそこへ、1つ 情け無いエピソードを追加したとしても、何も問題はない。
「実は これ、初めて出来た恋人から貰った物なんですよ」
「そうなんだね。なるほど。大切にするわけだ。男にとって初恋は、永遠に美しい宝物だから」
「はい。綺麗な思い出だけじゃ、ないですけど。
いや本当に、思い出したら恥ずかしくなるんですよね」
「恥ずかしい?」
「彼女は、どう見ても戸惑ってましたから。友達同士から、恋人へと 関係が変わったという事実に。
もっと、待ってあげるべきだったんですけど…俺、ガンガンに攻めちゃって」
「ガンガンに攻めちゃったのかぁ」
「若かったんで」
ただ、嬉しくて。
エリが自分の特別になった事が。
部屋に招き、ギターを取るふりをして わざと近くへ体を寄せてみたり。一緒に映画を観たは良いが、内容が頭に入って来なかったり。
そんな甘くも苦い思い出が、今の俺を作っている。