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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第38章 待っててくれますか?




【side 大神万理】


千と2人で食事をしたあの日から、約1ヶ月が経過していた。

外回りから帰ってきた俺を、社長である小鳥遊音晴が出迎えてくれる。そして、段ボール箱を手にこう言った。


「お疲れ様。君宛に、速達で荷物が届いていたよ」

「あ!すみません。出来るだけ早く受け取りたくて、事務所宛に発送してもらったんですよ」


残業がある日も多く、何時に自宅に帰れるのか読み辛い。なので日頃から 急ぎの荷物は、自宅ではなく直接 事務所に送ってもらうようにしていた。


「構わないよ。でも、そんなに急ぐくらい大切な物なのかい?」

「はい。凄く」

「分かった。あれだね?
いつも君が、必ず目の届く場所に置いている、白いヘッドフォンだ」

「はは。ご明察です」


俺は、早速受け取った段ボール箱にカッターを入れる。緩衝材の中から出て来たのは…

エリから最後に受け取った、白いヘッドフォンだった。


「実は、イヤークッションの交換の為にメーカーへ預けていたんです」

「前から思っていたんだけど、随分と昔の型だよね」

「はい。いつメーカーが、補修 修理サービースを終了するって言い出すかと、ビクビクしてるんですよ」

「ははは。新しい物に買い換えないで、それだけ大事にしてるという事は…
もしかして、大切な人からのプレゼントかい?」

「…はい」




初めての喧嘩は、俺が予想していたよりも 遥かに大きな影響を未来に及ぼした。
今でもたまに夢に出るくらいだ。もし俺が、あと1日早く彼女に謝りに行っていれば。あと1日早く、携帯に連絡を入れていれば。

エリは、俺の前から消える事はなかった?
エリと、音信不通になる事もなかった?


彼女が転校したと、彼女の唯一の友達である男に聞かされた時は、嘘だと思って疑わなかった。

立ち竦む俺に 彼は告げた。
遅すぎた。と。彼女は毎日君を待っていた。この校舎3階の窓から、正門を見つめていた。と。


そして、このヘッドフォンを俺に託したのだった。

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