第38章 待っててくれますか?
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「バカバカバカ!エリちゃんのバカ!」
『す、すみません…』
話を聞き終わった百は、全力で私を罵った。しかし全てはその通りなので、何も反論出来ないのである。
「好きな人の隣でだって、夢は叶えられるよ!それなのに、何で自分から捨てちゃえるのさ!エリちゃん、めちゃくちゃその人の事好きだったじゃんか!」
『そうだよね…うん。今から考えたら、百の言う通りだと思う。でもね、当時の私には なかったんだ。人を愛する気持ちを、力に変える能力が。大切な物を複数個持つ器用さが』
「〜〜〜まぁ、切ないけど仕方ないよね!実らないのが初恋だって言うし」
そう。あれは、確かに私の初恋だった。
苦しくて、切なくて、でも甘くて幸せだった恋。狭い世界で必死に泳いでいた、幼い自分。
決して戻ることの出来ない、淡い幻のようだったひと時。
タイムスリップでも出来るのなら、おそらく結果は変えられるだろう。だが、そうしたいとも思わない。
だって、あの結果も含めた全てが、私の初恋なのだから。
「ところでさぁ!大好きな人を置き去りにしてまで叶えたかった、エリちゃんの夢って何?」
『それは秘密』
「そこは教えてもらえないの!?」
アイドルを目指していたなんて。そして、1度はその夢を叶えたのに 捨てざるを得なかったなんて。
そんな悲しい話を、わざわざ百に聞かせるつもりは毛頭ない。
彼になら、私が Lio だと話してしまっても良いのだが。しかし優しい百は、きっと悲しむ。
それならば、悲しい過去は私の胸の内に留めておこう。