第38章 待っててくれますか?
そこから1週間。私は風邪をこじらせて床に伏せっていた。その間、万理からの連絡は1度も入らなかった。
互いに頭を冷やそうという私の提案に、同意してくれたからだろう。
風邪が完治してから学校に行くと、友達からは質問攻めにされた。
「心配してたんだよ!1週間も休むから!連絡も全く返してくれないし!どうなったの、あの後!ちゃんと話は出来た?」
『ごめんって!全部答えるから、質問は1つずつにして…』
「じゃあ、もう風邪は大丈夫?」
『大丈夫』
「大神さん、怒ってた?誤解は解けた?僕とは話をしてただけだって、分かってもらえた?」
『…一応は説明した』
私のその言葉に、彼は頭を抱えた。まだ万理が怒っていると理解したのだろう。
「じゃあ、1番大切な質問。
ちゃんと、言いたかった事は伝えられた?アイドルになる為の努力をする間、待ってて欲しいって、言えた?」
私は、ゆっくりと首を左右に振った。それを見て、彼は小さく唇を噛んだ。
「引っ越しまで、あと1週間しかないんだよ?大切な話をする前に、喧嘩してどうするの」
『……あのね。1つお願い事託してもいい?』
「え?」
『これ以上、迷惑かけるのは気が引けるんだけど…頼れるの、貴方しかいないから』
「今さらだよ。で?僕は何をしたらいいの?」
『もし、万理が私に会いに学校へ来たら…これを渡して欲しい』
「これ、エリが大切にしてる物じゃないか」
『ううん。もう、私には必要なくなったから』
「というか、もしかして…何も告げずに行くつもり?」
私は、その言葉に頷くだけで答えた。もしかしたら、後ろめたい気持ちがあったからかもしれない。
「…エリ。それは卑怯だ」
『分かってる。私は卑怯な奴なの。
好きな人が傷付くって分かってて、アイドルになる夢を選ぶんだから』
初めて出来た好きな人。絶対に叶えると決めた夢。
この2つを天秤にかけ、私は粛々と、後者を取ったのだ。