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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第38章 待っててくれますか?




傘を差す人がチラホラと現れる。そんな人々を横目に、私と万理は公園へとやって来た。しかし雨宿り出来るような屋根は無い。仕方なく、もう葉も落ちた樹木の下で立ち止まった。


「どういう事か、説明してくれ。どうして、俺には考え事をしたいなんて連絡しておいて、奴と2人で会ってたんだ?」

『ごめん…謝る、から。怒らないで、万理』

「どうして俺が怒ってるのか、分かって謝ってる?」


その質問に沈黙で答えると、万理は少しだけ声を荒げた。


「自分が悪いと思ってもいないのに、謝るなよ!」

『っ、…ごめ。でも、彼には相談に乗ってもらってただけ。別に何もなかった!本当だよ?』

「相談?相談なら、俺にすれば良いだろ。なんで、わざわざ自分の事を好きだと言ってる男に持ち掛けるんだ」

『……万理には、話せない事だったから』


言ってしまってから、しまった。と思った。それくらい、万理が傷付いた表情をしていたから。軽率に発言してしまった事を悔いた。

いつのまにか大粒に変わった雨が、容赦無く私達を叩く。


「なんだよ…それ。俺には話せなくて、あいつには話せるのか?それって何だよ…!」

『だから…それは!』


今、切り出すべきだろうか。私が万理に伝えようと決めたこと。アイドルになる為に、選んだ道を。

でも、このタイミングで話しても良いのか?
待っていて欲しいなんて。どの口が言えよう。


「…昨日の事でも、相談してたのか」

『え?昨日の…事って』

「俺からのキスを拒んで、気まずくなった。どうしたら元通りになれるか。
俺に話せない相談なんて、それくらいじゃないか?」

『万理は…私の事、何も分かってない』

「エリが何も話さないからだろ」


もう、駄目だと思った。無理だと思った。
こんな状態で、待ってて欲しいなんて。聞き入れてもらえるはずがない。

1度そんな考えを持ってしまうと、私の中で何かが弾けた。


『万理。しばらく連絡して来ないで。お互いに少し…頭を冷やそう。落ち着いて話が出来る、その時まで』


ぐっしょりと濡れた髪から、冷たい雫が頬を伝う。これが仮に涙だったなら。私の心は少しでも軽くなったのだろうか。

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