第38章 待っててくれますか?
胸の前で手を握り 目をぎゅっと瞑った私に、彼は溜息を吐いて言った。
「僕は、エリの惚気話を聞きに来たのかな?」
『え?』
「大神さんが好きで好きで仕方ない。それ以外の事は何も考えられません。要はそういう事でしょ?」
『そうだよ?』
「か、勘弁してくれ…!仮にも僕は、少し前まで君が好きだったんだぞ!」
『あはは。でも、友達で妥協してくれるんでしょ?感謝してるんだよ。これでも。ありがとうね』
「……惚れた弱みって、こういう事かぁ…」
彼は諦めたように天を仰いだ。しかし、すぐにこちらを見て言う。
「とにかく。大切部屋に、夢と大神さんを両方入れる方法を探すしかないな。問題を解決するには」
『それは無理かな…』
「あのさ。どうしても、どちらかを選ばなくちゃいけない。なんて、そんな事は無いと僕は思うよ」
『私は、選ばなきゃいけないと思う。1番を決めなくちゃ、私は動けないから。1番大切な物の為に全力を尽くす。だから夢か、それとも万理か…選ばなくちゃ駄目』
「頑なだな。順位を付けて、どうするの?1番以外は、必要ないのか?」
私に万理は必要か、必要じゃないか。
冷静になって考えてみた。そして、出た結果は…
『… “ 今は ” 必要じゃないのかもしれない』
「今は…」
私が不器用なせいで、要領が悪いせいで、頭の中全てが万理で占められてしまう。彼の事がそれだけ好きだから。そう言ってしまえば聞こえは良いが、それでは駄目だ。
私には、夢がある。アイドルになるという夢が。
その為に、これからもっともっと努力しなくてはいけない。それなのに、今の私と来たらどうだ。レッスン中も万理の事を考えて。作曲中でも、万理が頭から離れない。
しかし、万理なしの人生があるかどうかと問われれば、答えはノーだ。私はもう、万理なしでは生きていけない。
だから…
『私、万理に話してみるよ。
“ 私がアイドルとしてデビュー出来る日まで、待っててくれますか? ” って』
「…はは!本当に、不器用だなぁエリは。でも もしかしたら、それが唯一の方法かも。
大神さんも夢も、大切部屋へ入れる為の」