第38章 待っててくれますか?
いつもは万理と来る場所に、今は違う男と2人でいる訳だ。罪悪感が少しも無かったかと言うと、それは嘘になる。
が、私には いかんせん恋愛経験値が皆無だった。何がまずくて、何がまずくないかなんて分からない。
『今日ホームルームの時さ、担任のカツラちょっとズレてたよね』
「………エリ。俺達は、担任の頭皮事情を話す為にここにいる訳じゃないだろう?
君みたいな人でも、嫌な事から逃げる時があるんだな」
『う゛…』
「ほら、大神さんとの事で悩んでるんだろ?少なくとも僕は君より恋愛してきたぞ。だから安心して相談してごらん」
たしかに、私達が店に入ってから もう1時間近くが経過していた。そろそろ腹を決めて話してしまうとしよう。少しは自分の気持ちも整理出来るはずだ。
『私の心の中には、2つ部屋があります』
「う、うん」なんか急に始まった
『まずは、大切な物をしまっておく部屋ね。もう片方は、大切な物以外をしまっておく部屋』
「なるほど」
『今まで、私に大切な物なんて1つしかなかった。それは、アイドルになるって夢。それだけを考えて努力してきたつもりだし、これからもそうだって思ってた。だから、大切な物部屋には、当たり前みたいに夢をしまってたの』
「つまりは、大切部屋には夢を。その他部屋には、夢以外の全部をしまっていた訳だ」
『うん』
でも、誤算だったのは…
私の中で、万理という存在がここまで大きくなったこと。
『いつのまにか、万理がね…。その他部屋から、大切な物部屋に移動して来ちゃって…。
万理は 自分が大切部屋に入る為に、私がそこへしまっていた物を その他部屋へ移そうとしてくるの』
「なら その大切部屋に、大神さんも夢も 両方入れておけばいいじゃないか」
『…それは、駄目だよ。無理なんだもん…。もう、万理は大きくて、大きくなりすぎてて…万理だけで、大切部屋がいっぱいいっぱいになっちゃうんだもん』