第38章 待っててくれますか?
「え、エリ、引っ越しするの?という事は、まさか転校…?」
『うん。そうなるね』
「そうなるねって…随分落ち着いてるなぁ。大神さんには話したの?」
『…まだ』
「ちゃんと話するんだよ?付き合ってるんだろう?」
『知ってたんだ』
彼は、笑って頷いた。
自分に恋愛感情を持っている人と、友達になんてなれない。そう思っていたのだが、彼と私は こうして友達をやっている。
しつこく追う事もせず、自然に接してくれたおかげだろうか。なんにせよ、ファミレスで告白を受けた時は、こんな関係になれるなど思ってもいなかった。
間違いなく、この学校の中では1番 心を許せる存在となっていた。
「で?いつ?引っ越しは」
『2週間後』
「急だなぁ」
『いつもこんなもんだから。慣れっこだよ』
「それと、もう1つ訊いても良いかな?」
『いいよ?』
「大神さんと何かあった?」
『な、なんで、そんな事が分かるの?』
彼は、誇らしげに言った。エリは、意外と分かりやすいよ。と。
私が分かりやすいのではなく、彼の方が私をよく見ているから気付いたのでは?私はそう思ったが、その言葉は飲み込んだ。
「上手く、いってない?」
『………』
昨日の出来事は、ただのきっかけに過ぎない。問題なのは、私の気持ちだけなのだ。
万理は、私を真っ直ぐに好きでいてくれている。それでも上手くいかないのは、私が不器用だから。
彼の隣で、どんな顔をすれば良いのか分からない。好きをどう表現したら良いのか分からない。彼の気持ちに…どう、応えたら良いのか分からない。
1番の問題は、頭がそれでいっぱいになって アイドルになるという夢が危ぶまれるという点だ。
これは、解決出来る問題なのだろうか。考えれば、答えるの出る問題なのだろうか。
『………』
「最近、なんか元気がないなって思ってたんだ。僕で良ければ、話を聞くよ?」
『ありがとう…。助かる』
私は、携帯を取り出し万理に連絡を入れた。
《今日は迎えに来てくれなくても大丈夫。少し考えたい事がある。ごめんなさい》
彼からの返信は、無かった。