第38章 待っててくれますか?
映画の内容なんて、覚えてない。
隣に座る万理との距離が近過ぎて。何も頭に入って来なかったのだ。なんとなく、洋画だったな。くらいの記憶しかない。
少しでも動いたら、万理の体に当たってしまいそうで。微動だに出来ない。身体がガチガチで、肩が凝った。それでも、全く動けなかった。
ただ、映画を見ているふりをした。
「…エリ、寒くない?」
『寒くないよ、ちょうど良いから 大丈夫』
「そうか」
映画の方へ視線を戻した万理。それに安堵したのも束の間…。手が、そっと私の手の上に重なった。
驚いて万理の方を見るが、彼の視線はテレビへと注がれていた。
手を繋ぐのは初めてではないのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。ドキドキして、死んでしまいそう。ここが、万理の部屋だから?密室だから?分からない。
黙って俯いていると、万理が私の名を呼んだ。
「…エリ」
『ば、んり?』
「俺、本当にエリの事が好きなんだ。この気持ち、ちゃんとエリに 伝わってる?」
こくこくと懸命に頷く私の、髪をひと束掬い上げる万理。それから、彼のエメラルドのような瞳が、ぐっと私を覗き込んだ。
そして、それが徐々に近づいて来る。
「いくら言葉にしても、伝えられてる自信がないんだ。多分、俺の気持ちの1/10も伝わってない。
どうやったら…この好きって気持ち、エリに伝えられるんだろうな」
ふわりと、万理の匂いがした。髪が揺れて、瞳が揺れる。
私達に訪れた、2度目のキスの気配だった。
しかし私は、そんな未来から逃げ出した。
『ごめん…!ごめん万理、私』
私に胸を押されて、万理の瞳がまた大きく揺れた。