第38章 待っててくれますか?
それからまた、1ヶ月程が経過したある日のこと。
『今日はカラオケにする?また万理にギター教えて欲しいな』
「勿論いいよ。じゃあさ…えっと、今日は うちに来る?」
『え…うちって、万理の家 ってこと?』
「うん。今日なら親の帰りが遅いし、エリも気を使わなくて良いかなと思って。
駄目…か?」
彼の言う通りなら、家で私達は2人きりという事だ。果たして今の精神状態で家に行って、大丈夫なのだろうか。心臓発作とかが起きて死にはしないだろうか。
そんな馬鹿なことを、本気で心配した。
しかし、断るのも変だろう。私が万理を警戒しているみたいだ。
『いいよ…行く。万理の家、行く』
「そ…そっか!良かった。実は断られるんじゃないかって、結構緊張してたりして」はは
ほっとした万理の笑顔を見ると、私も少しは落ち着いた。断らなくて良かった。その時は、本当にそう思ったのだ。
「なんか、エリがこの駅で一緒に降りるのは不思議な感じだな。いつもはほら、俺が1人で降りるだろ?」
正直、電車の中でどんな会話をしたのか全く覚えていない。私は、この後に万理の家で 何が起きるのだろうと緊張しまくっていたから。
自分が今、どんな下着を着けているのか一生懸命思い出そうとしたり。万理の両親が何かの間違いで家に居たらどうしよう。そんな事ばかりが頭を巡っていた。
『お邪魔します』
「さっき言った通り、誰もいないから大丈夫。先に部屋に行ってくつろいでて。俺の部屋は…」
彼に教えてもらった自室に、1人で足を踏み入れる。誰もいないと分かっているにも関わらずノックをしてから。
初めて見る、万理の部屋。
飾り気が無くて、物が少ない。でも、音楽に関する物だけは溢れていた。
初めて見るのに、まるで来た事があるように感じたのだった。