第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
————
【side 中西純一】
私は、ここ BAR “ Longhi's ” でバーテンダーをしている。
マスターの中西という。
年齢はもう50を数えようとしている。ここに店を出して早20年。私がこんな歳になるのも当たり前だ。
今日は月曜日で、休業日としている。決まって月曜日は、店の掃除や グラス磨きをするのが自分の習慣なっているのだった。
カランカラン
店のドアが開いた合図の鈴の音が、この狭い店内に響く。
「いらっしゃいませ」
姿を現したのは、中崎エリ。なぜ私が、休業日である月曜日に彼女を店へと迎え入れるのか。
それは、1時間程前の電話…
《良かった…出てくれて。ありがとうございます》
「お久しぶりですね」
《それで…あの、今からそっちへ行っても良いですか?》
「おや、困りましたねぇ…当店は今日は休業日ですよ?」
《…はい。えぇ。迷惑なのは…重々承知しているんですけどね…》
「ここ以外にも、たくさんバーはありますよ。月曜日に営業しているお店も」
《え?なんですか、それ…私の事分かってるくせに。私は本当にもう、貴方じゃなきゃ駄目なんですよ。他じゃ無理なんです》
「…まぁ、そこまでうちを思っていて頂けるのは ありがたいですけどね…うちは今日掃除の日で」
《長いはしません。少しだけ…ほんの少しでもいいんです。仕事の邪魔はしません、30分もしたら帰りますから…》
「仕方ありませんねぇ…ですが私は、貴女に何杯か振る舞う以外は、いつも通り掃除とグラス磨きをしますよ?」
《!!ありがとうございます!良かった…今夜はどうしてもって思ってたんで。今からすぐに伺います!》
というのが、一連の会話の流れだ。
彼女は決まって、疲れた日や悲しい事があった日は うちへカクテルを飲みに来る。