第38章 待っててくれますか?
「エリちゃんはさ、付き合う事になる秋までは、その人に対して恋愛感情はなかったの?」
『うーん…その辺が、かなり曖昧なんだよね。言えるのは、初めて彼を意識した瞬間が 確かにあったってこと…』
友情。愛情。
この2つの区別がはっきりと出来ないくらいには、私は子供だったのだろう。
万理は私と違って大人だったから。もしかしたら、最初から見えていたのかもしれない。友情と愛情を仕切る境界線が。
私にとって、境界線が初めて揺らいだのは、間違いなくあの夏の日だ。
非現実感が漂う、夜の校舎。私達は、万理の学校に忍び込んだ。
単純に、知りたいと思った。自分の知らない万理を。学校を楽しいと言う万理が、普段ここでどんなふうに過ごしているのか。
いつも自分が座っている席から、万理は言った。
“ 俺が優しいのは、エリにだけだよ。エリ以外には こんなふうにしない。君だけを、特別扱いしてるんだ。他の人には、内緒な ”
懸命に、私は自分に言い聞かせた。
これは、ただの “ ごっこ遊び ” だ。私が持ち掛けた遊びに、彼は付き合ってくれているだけ。
そのはず、なのに。
なんで、貴方はそんなにも真剣な瞳なの。言葉を紡ぐ唇が震えているの。
どうしてそんなに…苦しそうなの。
そんな彼を見ていると、まるで伝染したみたいに私の胸も苦しくなったのを覚えている。
そして最後に、プールを見に行った。
茹だるような暑さから逃れる為。そんな単純な理由からだったのに。
そこで私は、人生で初めての感情に出逢う事になる。