第38章 待っててくれますか?
朝が憂鬱だった。なぜなら、学校に行かなくてはいけないから。学校へ向かう電車の中が1番苦痛で。
ヘッドフォンで世界と自分を切り離して。頭の中に大好きなピアノを置いて。ただ演奏に没頭してた。
『要領悪くて、友達もいなかったし。勉強なら家でも出来るって気付いたし、学校行っても楽しくなかったんだよね』
「……ごめん、それって誰の話?」
『話の流れ的に私に決まってるでしょ!』
「ごめんって!だって、想像が付かないんだもん。容量の悪いエリちゃんなんて。特に春人ちゃんの時なんて、要領の塊だし」
そう。私に、友達の大切さと、上手く生きる術を教えてくれたのは…
万理。
貴方と、あの電車の中で出会っていなければ。きっと今の私はいない。
貴方に会って “ 春 ” が、特別になった。
今までは、ただ四季の1つに過ぎなかった 春という季節が。
私の中で、特別になったんだ。
突然、私の髪に手を伸ばした 綺麗な男の子。凄く驚いたのを覚えている。
「わぁ…、いきなり知らない女の子の髪触るなんて、イケメンしか許されないのに!」
『顔は格好良かったよ』
「う、やっぱり…」
『後から聞いて知ったんだけど、私の髪に桜の花びらが付いてたんだって。それを取ろうとしてくれたらしいんだよね』
「怪しいもんだけどねー。エリちゃんが綺麗だったから、ついつい手を伸ばしちゃった説に1票!」
『百以外に投票する人がいないから、もう話進めるね』
次に彼と会ったのも、電車の中だった。
あの日は運悪く、私を目の敵にしているグールプと同じ車両に乗り合わせてしまったのだ。
私を敵視する理由は、彼氏をとったから。だそう。
本当に下らないと思った。だって、私はその男が勝手に告白してくるまで、存在すら知らなかったのだから。事実無根にもほどがある。
向こうが勝手に好きだなんだと言って来たに過ぎない。それも、彼女がいる身の上で。
憐れにすら思っていた。そんな馬鹿男も、そんな馬鹿男に振り回されてる彼女も。
あまりに執拗に絡んでくるから、いい加減に腹が立って。もう投げ技でも決めてやろうと立ち上がった。
それで暴力事件だなんだと取り沙汰らせて、退学にでもなれば儲けもんだ。
なんて、馬鹿な事を考えていたら 彼は再び現れた。