第38章 待っててくれますか?
『私が高校生の時の話。
あの時の私には、とてつもなく大切な物が2つあった。それは…夢と、初めて出来た彼氏』
「っっぐ、ぐわぁぁぁ」
『ちょっと何。恋バナが大好物なんじゃなかったの?何でそんなアキレス腱切れた時みたいな声出すの』
「アキレス腱切れた時ってこんな声出るの!?へぇ!知らなかっ…
いやそうじゃなくて!オレはいま複雑な心境なの!聞きたいけど聞きたくない!そんな繊細なオレの気持ちなんて、きっとエリちゃんには分からないんだぁ!」
『聞きたくないならやめるけど』
「ごめんなさい。全面的にオレが悪かったです。続けて下さい」
大切な物2つを心に抱えるには、あの時の私の胸は小さ過ぎた。
馬鹿で、子供で。そんな私は、大切な物は1つだけしか持っちゃいけない。そう思い込んでいた。
どっちも大切。どちらも選べない。それってつまりは、どちらも本当に必要なものじゃない。
そんな、穿った考えしか出来なかったのだ。
今なら、分かるのに。大切な物は複数あること。
愛している物全てに優先順位を付けなければいけない。どうして、こんな思想に囚われていたのだろう。
まぁ、狭い世界しか見えていない子供には よくある話なのかもしれない。
『最も大切な物1つ。それ以外は、どれだけ大切に思っていたとしても、全部偽物。
そんな馬鹿な考え方しか出来なかった馬鹿な私が、夢を叶える為に 大切な人を傷付けた。そんな話だよ』
「え っと、その…。オレ、初めて出来たっていう か、か か…彼氏についての話を もうちょっと詳しく聞きたいなぁ」ドキドキ
『春に出会って夏にいっぱい遊んで秋に付き合って冬に別れたって話』
「全くもって詳しくない!!
いつどこでどうやって出会って、どんなふうに愛を育んで、何がきっかけで恋人になって、別れちゃった時の詳しい状況が知りたいんだよぅ!」
『欲しがるなぁ百は…。でもいいよ、百になら話す。
あれはね、満開だった桜が 葉桜に変わり始めた頃…』