第37章 どうか俺の
おかしい。
いくら待っても、彼女が帰って来ない。いくらなんでも、遅い。遅過ぎる。
ここまで待ってから、ようやく俺の頭の中に ひとつの仮説が浮かぶ。
「もしかして…!さっきの話、聞かれたんじゃ」
顔から血の気が引いていくのが分かった。
さっきの会話の前半部分だけを聞かれていた。もし、そんな事態に陥っていたとしたら…
身体が、勝手に駆け出していた。
とりあえずは、エリが行ったであろう女子トイレがある場所まで走る。
トイレから出て来た女性を捕まえて、息も絶え絶えに話し掛ける。
「あの…、すみません…っ、」
「は、はい??」やだイケメン
「今って、トイレの中、誰かいますか?
実は、ちょっと人とはぐれてしまいまして…。このトイレにいた事は、間違いないんですけど」
彼女は、快くトイレの中を確認してくれた。しかし、帰って来た答えは 俺が予想していたものだった。
「今は、誰も使っていないみたいですね…」
「そうですか…どうも、ありがとうございました」
俺は丁寧にお礼だけ告げると、身を翻して走り出した。
こうなると、やはりさっきの話を聞かれていたという説が濃厚になってくる。
早く見つけないと。早く探し出さないと。
エリはきっと今、傷付いてる。
しかし、どこをどう探せば良いのか分からなかった。
立ちすくむ俺の前に、救世主が現れた。
「おお、この間の悪ガキじゃないか」
「…警備員さん!」
そう。彼は、以前 俺とエリが学校へ忍び込んだ時に出会った警備員だ。
驚く俺に、彼は呆れたように言う。
「いかんなぁ。せっかくのデートじゃろ?それなのに彼女を1人にしちゃあ」
「!!
ど、どこかでエリを見たんですか!?」
「??キャンプファイアーを、寂しそうに1人で見とったぞ」
「…っ、ありがとうございます!」
俺は、挨拶もそこそこにグラウンドへと走り出す。
「ふむ…若いってええなぁ。若いって」しみじみ
グラウンドでは、予想通りたくさんの人が溢れていた。
焚き火への点火が済んでおり、大きく燃え上がるキャンプファイアーを中心に、内部 外部の人達が楽しそうに談笑している。