第37章 どうか俺の
『私、知らなかった。自分の大切な人が認められないのって、こんなにも悔しいんだね』
大切な人…。
俺もエリを、心から大切に思っている。しかし彼女と俺とでは、大切の意味も違ってくるのだろう。
そう考えるだけで、胸が苦しくなった。
『…ごめん万理。私ちょっとトイレ』
赤い目元を気にしながら、鼻声で彼女は言う。そして、少し離れたお手洗いへと小走りで駆けて行った。
その背中を見送ってから、俺は静かに胸へ手をやった。
エリに出会ってからというもの、俺の心は大忙しだ。
ドキドキしたり、ふわふわしたり、トゲトゲしたり、温かくなったりもする。会える日は幸せで、毎回違う自分を見つける。
こんな幸せな日々は…いつまで続いてくれるのだろうか。
「あの」
「!!」
突然 話しかけられて、俺は閉じていた目を勢い良く開く。
声を掛けてきた相手を見て、さらに驚いた。彼女はたしか…かつて、エリに彼氏を取られたと騒いでいた子だ。派手な見た目は変わっておらず、巻き髪というスタイルも変わりない。
「あの…中崎エリとあなたって…付き合ってるんですか?」
「うーん。君の目にはそう映ったのかな?でも残念ながら、俺と彼女は友達だよ」
「そ、そうですか…。でも、あの子と仲良くするのは、やめておいた方が良いと思います!」
「え?どうして?」
「だって、彼女どう見てもおかしいじゃないですか!この間だって、あなた 突然蹴り入れられてたでしょ!私 見たんですよ!」
あぁ、なるほど。彼女はどうやら、あの時の事を見ていたらしい。
俺がエリに、ハトのフンから守ってもらうシーンなのだが。おそらく遠くから見ていただけでは、何が起こったのは細かい所までは把握出来なかったのだろう。