第37章 どうか俺の
「はぁ、笑った…。
そうだよな、やっぱりエリには 分かっちゃうよなぁ。あんな音を聴かせて、ごめん」
『そんなのはいいよ。別に、私はプロの演奏を聴きに来たんじゃない。
私が許せないのは…あの人達が、全部を万理のせいにした事。万理を馬鹿にした事。
ありえないよ。万理は、あんな滅茶苦茶な演奏でも、必死で…立て直そうとしてたのに。
それを…気付きもしないで、万理を責めた!』
エリは 目に薄っすらと涙を溜めて、唇を強く噛んだ。
『私、悔しい。万理は、頑張ってたのに。万里は、良い音を奏でてたのに。
それが、皆んなには 伝わらないなんて!』
薄っすらだった涙は、次第にその体積を増してゆく。今では溢れないように溜めておくのがギリギリの様子だ。
そんな彼女を見ていると、さきほどまでのドロドロとした感情なんて。あっという間に蒸発してしまうようだった。
俺は、エリの頭の上に ふわりと手を乗せる。
「ありがとうエリ。でも、俺はいいんだ」
『良くない…!良くないよ!』
「本当にいいんだ。
べつに、他の誰にも俺の頑張りが伝わらなかったって…エリに伝わってれば、それでいい。
俺の音が、誰にも届かなかったって。エリただ1人に届いていれば、俺はそれで満足。
ほら見てみろって。この上機嫌な俺を」
『っ、… でも!』
「俺は大丈夫。ありがとうな。
エリが、俺の代わりに泣いてくれたから。なんだかスッキリしたよ」
『な、泣いてない!!』
「はは。そうだな。ギリギリ泣いてない、かな?」
泣いてくれれば良いのに。
そうしたら、君を抱き締める口実が出来るだろう?