第37章 どうか俺の
「まぁ、こんなもんかな…」
「あぁ。思ってた程の感動は無かったけど、及第点だよな」
「だな。お疲れさん!」
舞台袖で、先輩達は言った。
俺は、腹が立って仕方がなかった。立て直せなかった自分に。
そして、あんな不甲斐ないステージで妥協している彼らに対して ガッカリした。まぁ、文化祭でも出し物だ。ここまで本気になる俺の方が異質なのかもしれない。
しかし、きっと伝わってしまったろう。大多数の人には分からなくても、特別な耳と感性を持った人間には。
さきのステージが、大失敗だったと。
「それにしても、なんか万理だけ音ズレてたよな」
「……え?」
「それそれ!なんか、浮いちゃってたって言うかさ」
「まぁまぁ。万理には無理言って参加してもらったんだから。そこは仕方ないって」
耳を疑った。
そうか。彼らは、自分達が正しいテンポを見失ったという自覚すらなかったのか。
それが分かると、自分を責めていたのが情けなくなってくる。
しかし、ここで先輩と喧嘩したところで、俺にとっては不都合でしかない。
「…はは。ですよね、すみませんでした」
頭に手をやって、お茶を濁す程度の謝罪をする。適当に話を合わせて、さっさとエリのところへ戻ろう。
ふと出口へ視線をやると、そこには…
特別な耳と感性を持った人間が立っていた。
「おわ、なんだ、なんか可愛い子がこっち見てる…」
「他校生…だよな」
「え、もしかして、僕達のファン!?」
呑気にも、エリに釘付けとなる先輩達。対して俺は、内心とてつもなく焦っていた。
「〜〜〜っっ!」
(ま、まずい!あの顔は…絶対にキレてる!
貴方達、耳が腐ってるんですか?とか平気で言っちゃう顔だあれは!止めないと、面倒な事になる!)