第37章 どうか俺の
午後19時。後夜祭が近づいて来た。花火とキャンプファイヤーが催されるとあって、皆んなのボルテージは上がっていく。
そんな中、いよいよ俺がステージに立つ時間がやって来た。
頑張ってね。
エリはそう言って、俺をステージへと送り出す。
多くの人に音楽を届ける機会は割とある。が、特別 聞いて欲しい人の為に音を奏でるのは、そうある事ではない。
「おし!いくぞ!万理も準備良いか?」
「はい!」
「じゃ、練習の成果見せてやろうぜ!」
「楽しんでいこー!」
先輩達3人に、ギターを担当するピンチヒッターの俺。音合わせは十分にして来たつもりだ。その成果を出せれば、良いステージになる。
俺達は、観客がいるステージへと踏み出した。
グランドに設置された、特設会場。人で埋まる客席。その数多いる人の海の中から、一目でエリを見つけた。
もし、エリを早く見つけよう選手権があったなら、優勝者は間違いなく俺だ。
ワクワク。そう顔に書いてあるみたいなエリを見て、思わずこちらの顔も緩む。
緊張はあまりしていなかったが、ヤル気はさらに上がったのだった。
いよいよドラマーがスティック同士を合わせ、スタートの合図を切る。
そして、ボーカル以外の3人の音が合わさる。
「っ!!」
(えっ)
『!』
まだ曲がスタートして10数秒だと言うのに、俺の背中に汗が伝った。それは…紛う事なき冷や汗。
「っ、」
(なんだ、なんでこんなに…!)
『…早い。明らかに、走り過ぎてる』
慣れないステージのせいか、全員が異様なスピードで音を奏でた。
ベース、ドラム。そして、それにつられてボーカルまでもが続いてしまう。
(俺が、俺がなんとかしないと!)
しかしそんな努力も虚しく。用意していた2曲とも、駆け抜けるようなスピードで終わってしまった。