第37章 どうか俺の
そして、来たる週末。
約束通り、エリは文化祭へと足を運んでくれた。
『この間はこそこそ入ってたのに、今日は堂々と見て回れるなんて。なんか不思議だね!』
「うん。本当に、不思議な感覚」
不思議だ。
どうしてエリが隣にいるだけで、こうも校舎が輝いて見えるのだろう。
正門も、たくさんの窓も、グラウンドも教室も。いつもと何1つ変わらないはずなのに。今日はまるで夢の国に迷い込んだみたいだ。
こんなふうに見えるのは、エリが俺に魔法をかけたからだろう。叶うなら、いつまでもこの幸せな世界に浸っていたい。そう思った。
『食べ物を食べながら、食べ物を買う為に並んでるのって…なんか間抜けだね』
「そうかな?出店の醍醐味だろう。ほら、たこ焼き冷めるぞ」
『まだフランクルト食べてるから、後でいい』
「冷めたたこ焼きなんて、関西人に見られたら怒られるだろ」
『え、何それ怖い』
俺の冗談を間に受けて、エリは慌ててフランクルトを咀嚼する。急いで食べたからか、口元には赤いケチャップが付いてしまった。
すぐにポケットからハンカチを取り出して、彼女の口元を拭う。
「ほら、上向いて」
『んーー』
そんな様子をたまたま見ていた同級生が、俺を揶揄う。
彼らが通りがかったのが、エリの背中側だったのが救いだ。下品に小指を立てて、こちらを煽ってくる姿は、俺にしか見えていない。
俺はそんな馬鹿な同級生に、ジェスチャーを返す。
「っ、」
(馬鹿な事やってないで早く行け!エリに見られたらどうするんだ!)
『??
どうかしたの?』
「いや、何も無い。何も無いから後ろは絶対に振り向かないで!」
振り向かないで。
振り向けば、可愛いエリの顔が、他の男に見られてしまうから。