第37章 どうか俺の
まだまだ駅に着いて欲しくなくて、わざとゆっくりと歩を進める。そんな俺の涙ぐましい努力に、彼女が気付いているのかどうかは 定かでない。
「でもそうか。ダンスも面白そうだよな。俺は完全な素人だけど、少し興味ある」
『ダンス凄く面白いよ!あ、参考にするんだったらダンサーのMAKAがオススメ!まだプロじゃないんだけど、ラビチューブに動画上がってるから今度見てみて?日本人なのに、あんなハイセンスなステップ踏めるの彼女くらい!本当にカッコよくて惚れ惚れしちゃう』
エリは、自分の興味のある事についてなら ご覧の通りのマシンガントークを炸裂させる。目を輝かせて、楽しげに話す彼女の笑顔が 俺は好きだった。
なんて、目を細めて彼女の笑顔を堪能していた。その時だ。
『万理危ない!』
「え?」
ドカッ!!
「ガフっ!」
前へすっ転ぶ俺。腰に走った衝撃。真後ろから聞こえてきた、ピチャ。という水音。そして、頭の上を飛び去った鳩。
徐々に、自分の身に何が起こったのか分かってきた。
『ふぅ。危なかったね。もう少しで、鳩のウンチが万理の頭に命中するとこだったよ』
「ウンチとか、言うなよ…。いやそれにしても、蹴り飛ばす事ないだろ!」
護身術を習得中というエリの蹴りは、かなり痛い。
俺が腰をさすりながら言うと、彼女は笑いながら こちらに手を差し出した。
『うん?じゃあ、排泄物が頭にクリーンヒットした方が良かった?
そっかぁ。でも確かに、万理のその綺麗な黒髪に 白い排泄物はよく映えるだろうねー』
「ごめんなさい。あと100回蹴っても良いので、また助けて下さい」
『…万理、変態?』
「なんでそうなるんだよ!っていうか排泄物って言うな!」
『あはは!万理がうんちはダメって言ったから』
俺がエリの手を取って立ち上がると、彼女は俺に怒られると思ったのか、すぐに身を翻して走り出した。
「あ!こら待て!」
『あはは!やだ。万理 蹴られて怒ってるから逃げるー』
俺は笑いながら、エリの背中を追いかけた。
楽しくて楽しくて、仕方がない。こうやって、彼女と馬鹿をやって はしゃいでいるひと時が。