第37章 どうか俺の
俯いて、黙りこくる彼女。熱々だったポテトも、今では冷え切ってしなしなだ。
エリが元気を失ってしまったのは俺のせいだ。何を言えば、いつもの彼女に戻ってくれるだろうか。
「あ、そうだ…!」
『?』
「これを、渡そうと思ってたんだ」
『それは、チケット?』
「そう。今週末、俺の学校で文化祭をやるんだ。これは、そのチケット」
『文化祭…』
「来てくれるだろう?」
『万理は、何かやるの?定番の女装喫茶とか?』
「え、その偏った知識は何…。全然 定番じゃないと思うぞ。
残念ながら女装はしないけど、学校の先輩達と組んでステージに立つんだ」
そう言うと、彼女の顔は光を取り戻した。俺がステージに立つのが、そんなに嬉しいのだろうか。
『行く。楽しみ』
チケットを握りしめて、えへへ と笑うエリの笑顔。この笑顔を思い出せば、ステージに向けた練習にいくらだって打ち込めるだろう。
エリは、それから次第に元気を取り戻していった。これで俺も一安心だ。
ふと窓から外を見ると、次第に暗くなりつつあった。そろそろ帰ろうと、どちらからともなく席を立つ。
長く伸びた2人の影を見つめながら、駅まで肩を並べて歩く。
『ステージってさ、踊ったりもする?』
「いや?メンバーは違っても、いつもと同じバンド演奏だよ」
『そっかぁ。万理なら、立ってるだけでステージ映えするから アイドルもいけると思うんだけどなぁ』
「はは。買いかぶり過ぎ。
そういえば、エリはどうしてアイドル志望なんだ?ピアノも弾けるんだし、弾き語り専門の歌手もありなんじゃないか?」
『万理は、どうしてバンドマンやってるの?』
「おい、質問を質問で返すなよ…
うーん、そうだなぁ…。やっぱり、自分の音楽を正当に評価して欲しいからかな。歌と演奏だけを見て欲しいんだ。
それに、俺は見てくれがそんなに良くないからな。そんな俺が踊って愛想振りまいても、誰も喜ばないだろうし」
『ふーん…万理ってさ、意外と自分のこと客観視出来てないよね』
「??」