第37章 どうか俺の
「今日、エリは誕生日だったのか?」
『違う違う。なんで万理まで騙されてるの』
「…アイドルじゃなくて、女優になったら?」
『そんなに素質あるかなぁ』照れる
先ほど繰り広げたのが演技ならば、素質があるどころの話ではない。
エリにメロメロになった警備員は、俺達を無罪放免にしたあげく、タオルまで差し出す始末だったのだから。
『万理にね、教えてもらった通りにしたの』
「俺が教えた?」
『自分がどうしても困った時、助けてくれるのは周りの人。だから周りは、自分の事を好きな人間で満たしておくべき。
だから私はね、あの警備員さんに、私の事を好きになってもらおうと思って!
凄いね。そしたら本当に助けてくれちゃった。やっぱり万理の言う事は間違いじゃなかった』
「…俺はもしかしたら、とんでもない人間を作り出してしまったのかもしれない」
『??』
俺は、彼女が覚醒するのを見た。
『ありがとう。私のワガママを聞き入れてくれて。万理の学校見れて楽しかった』
エリは、そう言って笑った。
俺だって、楽しかった。いやむしろ、俺の方が楽しかった自信しかない。
しかし同時に、胸の中には大きな疑念が生まれた。
もしかしたら彼女も、俺の事を少なからず 異性として意識してくれているのでは?
という、なんとも俺都合の疑念だ。
同時に、こんな強欲な自分に 嫌気が指す。
エリが隣にいてくれて、気の合う仲間と音楽も追いかけて。現状は、こんなにも幸せだというのに。
どうしても、期待せずにはいられない。
もしエリも自分と同じ気持ちなら、俺はもっともっと幸せになれるんだ。