第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
『…彼女がここまで騒がれているのは、たまたまですよ』
弾かれたように、全員の視線が私に集まる。
『初ライブがたまたま成功して、少し上手く歌えて…それで、忽然と姿を消したものだから…。
皆んなが面白がって、話を盛って どんどん尾ひれが付いて広まって…』
やめろ。どうして私は、彼らにこんな事を言って…。
『だからおそらく、もし彼女があのまま活動を続けていたとしても…きっとそこまで大したアイドルには』
口から、勝手に言葉が溢れ出す。
こんなのは…私のただの希望だ。言い訳だ。もしもあのままアイドルを続けられていたとしても、大したアイドルにはなれなかった。
そう、自分を納得させたいだけ。
ダンっ!
私は楽に胸ぐらを掴まれて、壁に叩きつけられていた。
「楽!」
「ちょっとやめなさい!」
龍之介が、なんとか私から楽を引き剥がす。
すると、酸素が再び肺に流れ込む。
「お前に…何が分かる!お前が!どうしてそんなふうに あいつを語るんだよ。
…不愉快だ。当分 俺にその顔見せんな」
それだけ言い残すと、彼は部屋を出て行ってしまった。
『…けほ、』
今更苦しかった事を思い出して、乾いた咳が突いて出た。
ぽん。
と、天が後ろから 私の肩に手を乗せる。
「良い事教えてあげようか」
『…ぜひ』
「楽に、“ Lioの悪口 ” は禁句だから」
『…そうなんですか?それ1分前の私にも、教えてあげて下さいよ』
「ふふ、キミ意外と面白い事言うんだね」
なんだかこの一連のやりとりを、つい最近もした気がする。
そんな事よりも。今回に関しては完全に私が悪い。しかし、頭に血が上った今の楽に何を言ったところで逆効果だろう。
『…姉鷺さん、申し訳ありませんが 今日のTRIGGERの同行は貴方にお願いして良いですか?』
「あら、逃げるの?」
相変わらず、嫌な男だ。
『…これは…逃げじゃない、です。戦術的撤退…というやつですよ』ごにょ
「「「………」」」
(ちょっと可愛い…)