第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
「お前…勝手に俺が振られたと思ってるだろ」
ギクリ。
「楽は、その女性を追いかけたくても追いかけられないんだ」
まるで自分の事のように胸を痛めている表情で、龍之介は呟いた。
追いかけたくても、追いかけられない。その言葉が意味する物は、一体なんなのだろう。
「…楽は、アイドルに恋をしたんだよ」
『え…』
思わず声が出た私を置いて、天は言葉を続ける。
「キミもこの業界にいるんだから、名前くらいは聞いた事あるでしょ?
ソロで活動していた、元アイドルの Lio 」
ふいに懐かしい名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。
「ボク達は、居合わせたんだよ。あの伝説とまで呼ばれたあのライブに。
そこで彼女の姿を見て、歌を聞いて、楽は好きになっちゃったんだってさ」
…ふいに。離れた場所から、体に纏わり付くような嫌な視線を感じた。
その視線の発信源を探って そちらに目を向けると。ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる姉鷺とぶつかった。
あのオカマ…この話 絶対知ってやがったな。
まぁでも、これで合点がいった。なぜ八乙女社長が、異様なまでにメンバーと私の仲を危惧する理由が。
彼も知っていたのだろう。自分の息子が、既に私に恋をしている事を。
そういう事実があるならあるで、先に言っておいてくれたら良いものを…。
「お前ら…っ、俺が黙ってれば好き勝手に人の恋愛語りやがって!」
少しだけ紅潮した頬を隠すように、顔の前に腕をやって叫んだ楽。
「あはは、ごめん。でも…俺達があそこに居合わせたのは本当に幸運だった。
あんなライブ…きっともうお目にかかれないよね」
『………』
そうか。この3人も、あそこに…。
あのステージの前に、立っていたのか。
しかし、彼らもまた。私の事を過大評価しているに過ぎない。