第37章 どうか俺の
『この教室で、万理はいつも勉強してるんだ』
「まぁ…勉強したり、曲作ったり。あとは良質な睡眠時間を確保したり…」
あとは、君の事を考えたり。
『あはは。そこは私と大差ない!
で、万理の席はどこ?』
「俺の席か?それなら、あそこ」
自分の机を指差すと、彼女は素早く そちらへ移動して行った。
そして何故か、そのまま俺の席をスルーして、隣の席へと腰を落ち着けた。
『ほら、授業始まっちゃうよ!大神君も早く席に着いて!』
「え?あぁ。分かった、けど」大神君?
エリに促されるままに、俺は座り慣れた席へと腰を下ろす。
すると、彼女は机の上にぺたっと上半身をくっつけて。こちらへ顔を向ける。
上目遣いで、何を言うのかと思ったら…
『大神君、私 教科書忘れちゃったみたい。
ねぇ、一緒に見せてくれる?』
「…っぷ。何それ。なぁこれどういう遊び?俺もやりたいから、ルール教えてくれない?」
きらりと、こちらを向いて光るエリの瞳。また騒ぎ出した心臓を落ち着けながら、懸命に平静を装って尋ねる。
『これはね、もし私と万理が同じ学校に通ってて。それでもって たまたま同じクラス、隣の席になったとしたら、どんなふうだったのかなぁ?っていう遊び』
「何だそれ。何て楽しそうな遊びだ!」
『あはは。さすが万理、ノリが良い!ルール分かったら ほら、続けるよ?
大神君、教科書 見せてくれる?』
「仕方ないな。中崎さんは、意外と抜けてるところがあるんだから…」
そう言って俺は、隣に自分の机を移動させる。2つの勉強机がピッタリとくっついてから、中に手を入れ 教科書を取り出す。
そして、エリの机の方に大きく広げて置く。
『こんなにこっちに置いてくれなくても良いのに。これじゃ、大神君が見えないでしょ?』
「中崎さんが見えるなら、俺はいいから」
『…優しいね。大神君は』
「俺が優しいのは、エリにだけだよ。エリ以外には こんなふうにしない。君だけを、特別扱いしてるんだ。
他の人には、内緒な」