第37章 どうか俺の
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「……」
『いま上見ないでね!』
「見てない!」見たいけど見てない!
裏門を乗り越えるようとする、エリを下から支える。いま顔を上げれば、さぞ素晴らしい景色が臨める事だろう。
しかし、時刻は午後9時を回っている。当然 校内の照明等は全て消されており、ここ裏門を照らす電光も控えめだ。だから、たとえ今 顔を上げたとしても 色までは確認出来ないとは思うが…
健全な男子高校生が己の欲望と戦っている間に、彼女は地に降りていた。
スカートの裾を内腿に挟み、後ろは手でしっかりと押さえて。軽やかに、タトン と着地を決めた。
遅れて俺が、頂上へと登り詰めた。
「これ、上に登ってみると意外と高いな…」
『怖い?もし良ければ、受け止めて差し上げましょうか?万理姫』
「なんだそれ。俺を姫扱いして何が楽しいのか分からないな」
俺が姫なら、エリが王子か?そんなのは絶対に ごめんだと思った。
叶うならば、俺が彼女にとっての王子になりたい。
こんな事を常日頃、俺が考えてると知ったら。君は一体、どう思うのだろうか。
「…さて、どこから見たい?」
『うーん、やっぱり 教室!
万理のクラス連れて行って?』
「仰せのままに」
出来る限りの忍び足で、俺達は暗い廊下を行く。エリは興味津々できょろきょろと視線を泳がせている。
俺は、そんな横顔を見たくて見たくて仕方ない気持ちを押し殺し。警備員などの出現に備えた。が、人の気配は全く感じない。どうやら見回りは終わったのだと思われる。
『自分の学校じゃないけど、やっぱり昼の学校よりも夜の学校の方が断然ワクワクしない?』
「その気持ちは、俺も凄く分かるな」
昼夜で景色が違って見えるのは、なにも学校だけじゃない。
エリの表情も、纏う雰囲気も。昼と夜とでは全く違ってみえる。
仄暗い校内、薄い光源に照らされる君の横顔。それは思わずドキッとしてしまうほどに大人っぽくて。
決して昼には見る事の出来ないエリを前にして、俺の胸は騒ぎ出す。