第36章 どうか俺と
「助け合える人間は、多いに越した事はないだろう?」
一気に喋ったから喉が乾いてしまった。目の前にある水に手を伸ばし、中身を一気に飲み干す。
飲み干したところで、彼女からの反応が一切ない事に気が付いた。恐る恐るその顔を確認すると…
『…面白い。それ、その考え方面白いよ!うん!すごい理に適ってる。そんな考え方、私した事なかったよ!万理は大人だね…
ねぇ そういうの、もっと教えてよ!』
それはもう、キラキラの笑顔をこちらに向けている彼女がいた。
興味を示してもらえて安堵したのと、新たな表情が見られて嬉しいのと。複雑な心境だったが、俺はまず この言葉を口にした。
「いいよ。俺なんかの持論で良ければ、いくらでも教えてあげる。でもその前に、俺にもぜひ教えて欲しい事があるんだ」
『うん。なに?』
「いい加減、君の名前が知りたいんだけど…」
彼女は、まだ自分が名乗っていない事に驚いたのか、目を丸くした。その後、一体何が面白かったのか 明るく笑った。
そして… 中崎 エリ と。自分の名前を教えてくれた。
それから、また俺がうっかり忘れてしまわないうちに 連絡先の交換をする。
そこからは、もう本当にたくさんの話をした。
よく聴く音楽、好きな芸人に嫌いな食べ物。将来の目標や夢、それから家族構成とか生い立ちとか。それに加えて、さっき彼女が興味を持ってくれた、俺の考え方も伝えられるだけ伝えた。
そうして 盛りたくさんの情報を交換して、俺が彼女について得た知識…。その中でも特筆すべきなのは以下の通りだ。
彼女は、アイドルを目指している。それから両親が転勤族で、転校が多い事。
『べつに転校自体は苦じゃないんだけど、この前の引越しは嫌だったな…』
「別れが辛い人がいたとか?」
『うん。孤児院で知り合った、ある兄弟がいてね…。私と同じぐらい 人付き合いが苦手な子達だったから、ちょっと心配』
「それは確かに心配だな!」
『万理、失礼』
「はは、ごめん。でも、いつかまた 会えるといいな」
『うん。その子もアイドル目指すって言ってた。それで、私よりも早くアイドルになって 迎えに来てくれるんだって!可愛いでしょう?』
そう言って、グラスに刺さったストローを弄んで笑う彼女は、可愛かった。