第36章 どうか俺と
「ご、ごめんなさい!」
「『!!』」
『ば、万理…』
「誰だあんた…他校生?」
息を切らし、2人の間に割り込んだ。そんな奴が急に謝罪をしたのだから、当人達はかなり面食らっている。
「あはは。俺、この子の友人でして!すみませんね、失礼な言い方を…。彼女は多分 あなたみたいなイケメンに告白されて照れちゃってるだけなんで!」
『はっ!?』
俺は、彼女の口を がっと押さえる。そして体をじりじりと移動させて、目の前の男から距離を取る。
「照れてるにしても、言い方ってもんがありますよねぇ。すみません、俺がしっかりと言い聞かせておきますので!じゃあ俺達はこれで。さよなら…!」
「…なんだ?一体」
勢いにのまれる男を置き去りに、俺達は走るようにして その場を後にした。
『放して万理。どうしてさっき謝ったの。意味が分からない』
「あのな、いくら正論でも あんな言い方をしたら駄目だ」
『どうして?私には何が悪かったのか分からない』
そして、ようやく正門を潜る。学校外へ出たのを確認してから、俺はピタリと足を止めて 彼女を振り返る。
「とりあえず、ゆっくり話が出来るところに行かないか?」
そうしてやって来たのはファミリーレストラン。山盛りのポテトが有名なチェーン店だ。
ドリンクバーと、やはりポテトを注文してから、俺は彼女に考えを述べ始める。
「どうして君は、むやみに敵を作りたがるんだ」
『自分が正しいと思う事を言ってたら、自然とそうなった』
「あのな…
言いたい事を言うなんて、子供にでも出来るだろう?頼むから、もっと上手くやってくれ。見ていて気が気じゃなかったよ」
『もっと 上手く…? なんで?』
「これは俺の持論だから、君に押し付ける気はない。でも、聞いて。
自分の周りに置いておく人間は、敵より味方が絶対に良い。絶対にだ。特に芸能界を目指す立場にいるんだったら、なおさら。
笑いたくなくても笑わなきゃいけない。嫌いな人間にも愛想を振りまかなくちゃいけない。その練習を、今からしておくべきだ。
それに、実力や運だけで登っていければ良いけれど。どれだけ努力をしたって、躓く時は来る。
そこで助けてくれるのは、周りの人間だ。誰が、嫌いな人間を上へ押し上げたいと思う?
だから周りは、自分の事を好きな人間で満たしておくべきなんだ」
