第1章 もしかしなくても、これって脅迫ってヤツですか?
『え……ここって、』
「ようやくアンタの人間らしい表情見れたわ」
やっと到着したその場所は、芸能プロダクション…八乙女事務所だった。
アイドルをはじめ、多くの著名な芸能人を排出する【八乙女プロダクション】
この業界で働いていて、八乙女プロを知らない者など、モグリ以下だ。
そんな大手芸能事務所の自社ビルを見上げる私。彼は自慢げに ふふん、と鼻を鳴らして建物内へと入っていく。
もしかしなくても、私がこの後会う事になるのは 八乙女宗助その人なのだろう。
“ うちの社長 ” さきほどこの男はたしかそう言っていた。
地下駐車場から関係者専用裏口へと向かい。そのままエレベーターに続く廊下を歩く。
社長室に向かう間に、大きな事務所やレッスン室などが確認出来た。さすが大手なだけあって、うちの弱小事務所とは何もかもが違う。羨ましいの一言だ。
建物頂上にある、ガラス張りの扉をノックする男。
「社長。お連れしました。失礼します」
入れ。という声を確認してから、彼は入室した。もちろん私もそれに続く。
社長椅子には、やはり想像していた男が座っていた。
立ち上がって挨拶をするでもなく、その鋭い瞳は私をじっと捉えていた。
「彼はうちの社長。八乙女宗助」
知っている。
「アタシは、TRIGGERの現マネージャー。姉鷺カオル」
それは知らなかった。
強引に連れてこられたとはいえ、私も自己紹介をすべきだろうか。
『…中崎エリです。今は弊社でプロデューサー業やマネージャー業を任されています』
私は八乙女社長に名刺を差し出す。
彼は一応は受け取ったものの、一瞥もくれる事なくテーブルに名刺を置いた。
まるで、こんなものは もうすぐ何の意味も無くなる。そう言っているみたいだった。