第1章 もしかしなくても、これって脅迫ってヤツですか?
「随分あっさり乗ってくれたわね。意外。驚いたわ」
『どうして貴方がそんな戯言を言い出したのか。興味があるんですよ』
車は、高速をビュンビュン走る。外の景色が遮断されていない時点で、誘拐という線は消える。
「あら、戯言ですって?失礼しちゃうわ。確証が無かったらここまでするわけ無いでしょ。アナタおバカちゃんね」
『私が本気を出せば、いつでも車から降りられる事お忘れなく。
私について随分調べてくれたみたいなので、お分りですよね』私が武道かじってる事
私は、彼の延髄を小突き気絶させ 運転手からハンドルを奪うイメージを構築していた。
「…野蛮ね」ふぅ
私達を乗せた車はやがて高速を降りる。まだ都内。そう遠くまでは来ていない。
さきほどの会話以降、ずっと口を閉ざしていた彼が 久しぶりに言葉を発する。
「うちの “ 社長 ” はね」
うちの…社長?
会話の中からヒントを探る。
「アナタの過去には一切興味が無いみたい。でもね、アタシは違う。凄く興味があるわ」
男の真剣な瞳が、私をぐっと覗き込む。
「その一度きりのライブを目撃したのはたった150人。
それが今では、噂が噂を呼んで一躍有名人。 Lioをスカウトしたい事務所がたっくさん。
…大勢の人を魅了するライブをしたアナタが、たった一度でステージを降りた理由は
一体なに?」
『…今まで、誰一人としてLioに辿り着いた人間はいない。
どうしてだか分かりますか?
きっと彼女が、情報をひた隠しにしてきたからでしょう。もし仮に、貴方の言う通り私が張本人だとして…その絶対的秘密を、さっき会ったばかりの怪しいオカマに話すと思います?
少し考えれば分かると思いますが…。貴方おバカちゃんね』
「アンタ可愛い顔して性格悪いわね」
それ、正解。
「にしてもほんと、よく今まで正体がバレる事なく業界にいられたわね」
『…業界の人間は…見たい物しか見ませんよ』
髪をバッサリ切り、化粧をごく薄いものに変え、服装もパンツスーツ。無駄に愛想を振りまくのもやめた。
そんな冴えないマネージャーを、まさかあのLioだと気付く人間は居なかった。
あそこにいる人間は、自分が欲しい物しか視野には入れないのだ。
「なんだかそれ、深い言葉ね。悲しいかな核心だと思うわ」