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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第36章 どうか俺と




翌日。いつもの時間、いつもの車両。
いつものタップ音。


「おはよう」


朝の挨拶をしたのだが、彼女は気付かない。どうやらかなり集中しているらしい。
また髪や肩に触れれば こちらに気付いてくれるのだろうけど、きっと 驚かせてしまう。


「……」
(凄い、真剣な顔してる)


軽く瞑られた瞳。長い睫毛が影を作っている。唇は薄く開かれて…
相変わらず、綺麗だ。このままもう少し、彼女を眺めているのも悪くない。

俺は彼女の前の位置に陣取って、まだ名も知らぬ友人に 視線を縫い付けた。


『……っ!!』

「お、やっと気付いた。おはよう」

『おは、よう…声 かけてくれれば良かったのに』

「はは。一応かけたよ?」


10数分後、彼女はようやくこちらを見上げた。そしてヘッドフォンを耳から外しながら挨拶を返してくれる。


『……座る?』

「いや、俺は大丈夫だから。君がそのまま座っててくれた方がありがたいかな」

『分かった』


どこの世界に、わざわざ女の子を立たせて 自分が座る男がいるのだろう。
彼女は、不思議な事を言う。


『じゃあ、荷物持つ?』

「え、別に重いもの持ってる訳じゃないから気にしないでいいよ。
っていうか、今日は随分優しいじゃないか。どうした?昨日とは別人みたいだ」

『だって、万理は私の友達だから。友達に優しくするのは当たり前でしょう?』

「!!」
(っか……!)

『??』


か、可愛い!!なんて甲斐甲斐しい事を考えているんだ!

完全に不意を突かれた俺は、またしても訊きたい事を何1つ問えずにいた。
それを思い出した時のは、彼女が腰を上げたタイミングだ。


『もう降りないと。じゃあね』

「待っ」


ホームに降りた彼女が、車内に残る俺を振り返る。
せめて、これだけは伝えたい。俺は少しだけ声を張った。


「今日、放課後!そっちまで迎えに行くから、待ってて!」

『!』


ホームの彼女は、確かに こくりと1度頷いた。


「!!
……よしっ」


俺は、周りの大人達の生温かい視線を浴びながら、小さくガッツポーズを作った。

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