第36章 どうか俺と
高校生という微妙な年齢に加え、彼女が通うのはおそらく芸能コース。プライドが高い生徒も多く、欲望渦巻く その環境の中で、彼女は踠き苦しんでいる。
誰よりも早く、有名になりたい。その為には絶対的に努力が必要。そんな単純な方程式さえも、若い高校生の前では簡単に揺らいでしまう。
しかし、彼女だけは 揺るがなかった。
もしも 周りと一緒になって楽な方に逃げられるような子だったら、きっと苦しまずに済んだだろうに。
そうか…。だから俺は…
彼女を綺麗だと思ったのか。
周りに理解はされず、でも直向きに努力している姿は どうしたって美しい。
ただ 周りからは異質な存在として扱われ、疎まれ妬まれる。
そういうところは、今から思えば 千に少し似てた。
誰に理解されなくても、俺だけは理解してやりたい。1番の理解者でいてやりたい。傲慢かも知れないが、たしかにそう感じた。
「それでもやっぱり、友達は必要だよ」
『私はそうは思わない』
「1人で頑張り続けるのは、絶対に辛いって。だから友達は作った方が良い」
『…友達って、1人でいたくないから作るもの?』
首を傾げ、純粋に質問をぶつけてくる彼女が可愛くて。俺はつい吹き出してしまう。
「ふ、あっはは!たしかにそうだ。そんな理由で友達を作るのは違うよな。うん、ごめん。
友達って、その人の事がもっと知りたい。その人ともっと時間を共有したい。お互いがそう思った時に、初めてなるもんだよ」
『うん。まだそっちの方がしっくり来る』
「それで、俺は今 君と友達になりたいって純粋に思ってる」
『え』
また驚いた表情を見せる彼女に、右手を差し出す。そして想いを紡ぐ。
予定していた言葉とは、随分違ってしまったけれど。これが俺の、今の素直な気持ち。
「俺の名前は、大神万理。
どうか俺と、友達になってくれませんか」
『……変な人』
彼女は、ゆっくりと俺の右手に自分の右手を合わせて 笑った。
初めて見た彼女の笑顔は、まるで満開の桜のように綺麗だった。