第36章 どうか俺と
「いや…っ!たしかに、この前は勝手に触っちゃったけど!痴漢じゃない!断じて痴漢じゃないんだ!まぁ怪しいって思われても仕方ないんだけど、でも」
『ごめん、実は分かってた。ちょっと揶揄っただけ。どうせ、髪に付いたゴミ取ってくれたとか そんなオチでしょう?』
「ま、まぁ、遠からず かな。ほとんど…そんな感じ」
そうか。俺は今、揶揄われたのか…。
うん。もっと揶揄われたい。とか思う俺は、どうかしてる。
『学校、行かないの?』
「え…あぁ、俺は全然大丈夫なんだけど。そうだよな…ごめん、俺が強引に電車から降ろしちゃったから、君まで遅刻する羽目になっちゃって」
『私も、今日はいいや。もう』
「それは、サボるって意味?」
彼女は頷いた。
意外だった。俺は彼女に、真面目で優等生なイメージを抱いていたから。どうしても学校をサボるような子には見えなかったのだ。
すぐに彼女は続けて言った。
『つまらない場所だよ。学校なんて。努力する気もない生徒が無駄に群れてるだけ。
音楽の勉強だって、べつに学校でやる必要なんてないし。ほんと 通信にすれば良かった』
「友達、作らないのか?」
ついに俺は、気になっていた事を口に出した。
こうして彼女と話せば話すほど、ますます分からない。彼女は至って普通の女の子だ。どうして、イジメの対象となってしまったのか。
それはおそらく、彼女の方から距離を置いているからではないだろうか。
『今の学校の生徒は、皆んな嫌い。
貴女は才能があってラッキーだね。天才が羨ましい。そんな勝手な妄想で、自分が努力しなくても良い理由作ってさ。
どうして、私が努力してるって気付かないんだろう。どうして、人を妬む事しか出来ないんだろう。
中学の時は、こんなんじゃ なかったのに』