第36章 どうか俺と
俺が彼女の腕を取って そう言うと、3人組は顔を真っ赤にして 反論しようと口を開く。
これ以上、相手にするのは面倒だと判断した俺は 主犯格の女の子からヘッドフォンをむしり取る。そして彼女の手を取って、たまたま開いていたドアからホームへと飛び出した。
電車は、ガタンゴトンと音を立てて3人を乗せて遠くへと走って行く。
俺と彼女は、それを静かに見送った。
完全に姿が見えなくなってから、俺は はっとした。
そうだ。今こそ、2日使って考えた挨拶を彼女に伝えるべきだ!しかし、あんなに一生懸命に反復練習した言葉が 全く出て来ないのだ。
『ありがとう』
「………え」
『ありがとう』
まさか、だった。まさか彼女の方から語り掛けてくるなど、予想外だった。
「いや、あんなのは俺が、勝手なお節介を焼いてしまっただけで!むしろ迷惑じゃなかったかな…なんて!思ってるんだけど」
『ううん。貴方が止めてくれてなかったら、彼女のこと投げてた。だから、止めてくれてありがとう』
「あー…えっと。俺としては、向こうの女の子を 止めたつもりだったんだけどな…はは。そうか、実は君の方を止めてたのか」
思ってた感じとは違うが、今こうして彼女と話をしているのは 不思議な感覚だった。
お腹がそわそわして、胸がドキドキする。
俺は、手に持っていたヘッドフォンを そっと彼女の首にかける。
「あのさ…俺の事、覚えてる?」
『うん』
帰って来たヘッドフォンに指を添えて、彼女は頷いた。そして、言った。
『この間の、痴漢の人』
俺と彼女の距離は、まだまだ果てしなく遠い。