第36章 どうか俺と
「ちょっと人より歌えて踊れるからって、調子乗ってる?」
『………』
「あと、人の彼氏取って何が楽しいの?ありえないんだけど」
『………』
「何とか言ったら?それとも、図星過ぎて何も言えない?」
3人は、次々に言葉の刃で彼女を斬りつけた。ヘッドフォンを奪われた彼女は、確実にこの声を聞いている。そう考えるだけで、俺の胸の方が張り裂けそうだった。
周りの人間達は、置物のように固まって身を小さくし、何も聞こえていないふり。
部外者の俺には、どちらが正しいかなんて分からない。事実なんて知らない。
でも、今どうしても。俯く彼女の味方に なってやりたい。
「……待っ」
『じゃあ、言わせて貰うけど』
彼女は ぱっと顔を上げて、すくっと立ち上がる。そして意を決して口を開いた俺の先を越し 言った。
『歌もダンスも、あんたらより私の方が上手い。ざまぁみろ』
端整な顔で、可憐な唇で、彼女は 汚い言葉を吐いた。
突然の反撃を食らった彼女達3人は、ぽかんと口を開けていた。それは、俺も同様だった。
泣きそうになって、顔を俯かせていると思っていたのだが。もしかすると、懸命に怒りを堪えていたのだろうか。
そしてようやく口にした言葉は、なんて苛烈。彼女に対する、儚げで弱々しいイメージが 完全に塗り替えられた瞬間だった。
『あ、あと心底どうでもいいけど、あんたの彼氏は 私の方が好きだってさ』
「〜〜〜っ!!そんな、そんな性格だから!あんたには友達の1人もいないのよ!!!」
『!』
荒々しく襟を掴まれた彼女は、目を見開いた。突然 襟を掴まれたから驚いたのか。はたまた、投げられた言葉にショックを受けたからか。理由は分からない。
でも俺は、俺だけは彼女に優しくしてあげたい。
「はい、ストップ」
「「「『!?』」」」
「何があったかは分からないけど、暴力は良くないと思うよ」
「は…、はぁ!?いきなり、何!?あんた誰!」
「この子の友達だけど。何か、問題ある?」
そう告げた俺を見上げる、驚いた瞳。
彼女が俺に目を向けてくれたのは、これで2度目だ。
前回も君は、同じ表情をしていたのを 俺はしっかりと覚えてる。