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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第36章 どうか俺と




吊り革に掴まって、熱い溜息を漏らす俺は さぞ怪しかろう。気持ちを落ち着けようと、自分の指先をじっと見つめる。
そこは、昨日 彼女の髪に触れた部分。

未だに焦れったい熱が、そこに残っているみたい。甘い痺れが、体全体に広がっていきそうだ…


「ねぇほら、あの子」ひそ
「あぁ。例の…」ひそ


隣に立っていた女子高生2人の話し声が、俺の耳に飛び込んで来る。べつに盗み聞きしようとした訳ではないが、いかんせん人よりも耳が良いのだ。

2人は、明らかに彼女の方を見て話している。制服も同じ物を着ているし、彼女についての話をしていると見て間違いないだろう。


「ダンスレッスンもボーカルレッスンも、凄い成績だって。それなのに、学校側が斡旋した仕事 絶対受けないんだって」
「は?何で?調子乗り過ぎててムカつく。そんなだからイジメられるんじゃんね」
「それだけじゃないよー黒い噂!私の友達が泣いて相談して来たんだけどさ。あの子に、出来たばっかりの彼氏を取られちゃったんだって!」
「あ、それ噂で聞いた!芸能科でアイドル志望のイケメン君でしょ?人の彼氏取るとか最低じゃん」


両手で吊り革に掴まって、今度は冷めた溜息を吐く。


「……はぁ」
(イジメ、かぁ)


名前を知る前に、余計な情報を手に入れてしまった。
人の噂なんて 話半分どころか、話1/10ぐらいで聞いておいても まだ多いくらいだ。

だからどうか、今の話がただの噂話であればいい。
今は無表情の君だけど、学校や家では笑顔を見せていればいい。
温かい人達と、素敵な音楽に囲まれて。幸せな時間を過ごしていればいい。



「!!ちょ、隣の男の子 超カッコよくない!?」ひそ
「!!ほんとだぁ。背高〜いイケメ〜ン!」ひそ

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