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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第36章 どうか俺と




有名な学校の制服だった。たしか、芸能科に特化した高校のものだったように思う。
何年生だろう。俺と同じ1年生?それとも、年上だろうか。ピアノを弾いていて芸能高校に通っている彼女は、何を目指しているのだろう?普段どんな音楽を聴いているのか。昨日、俺のせいで授業には遅刻していなかったろうか?


「……溢れるこの気持ちに名前を付けるとしたら、一体どんな文字を選んだら良いんだろう」


真っさらな楽譜。並ぶのは五線譜だけ。今の気持ちを音に変え、全部吐き出してしまいたいのに 思うように声が上がってこない。
胸に重い物がつかえていて、息が 苦しい。

もう1度、彼女に会えば この気持ちに答えは出るのだろうか?



翌日は、普段の電車よりも1本遅いものを わざと選んだ。それは、昨日と同じ時間の電車だ。
勿論、今日も彼女と会う為に。

車内に乗り込み、耳をすます。すると かすかに、あの音が聴こえてきた。


「……」
(良かった…今日も、弾いてる)


昨日俺があんな暴挙に出たせいで、電車の時間をずらされているかもと思っていた。しかし、それは杞憂だったようだ。
視界の端に彼女を捉える。今日も、昨日と同じ席に座っている。足がもつれそうになるのを堪えて、俺は急ぐ。

しかし、突如ぎくっと足取りが止まる。


「……待てよ」
(彼女に会って、まず何て言おう。とりあえず謝るか?でも、何て?
綺麗だったから、つい触っちゃいました。とか?いや、絶対駄目だろ。それ…)


考える時間など、昨日いくらでもあったのに。どうしてあらかじめ、ちゃんとした言葉を用意しておかなかったのだろう。昨日の俺を殴ってやりたい。

とりあえず、良い言葉が見つかるまで 少し離れた場所から彼女を眺める。


「………」
(…うぅ、なんだか…昨日より、可愛い…)

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